せきをしてもひとり
墓のうらに廻る
足のうら洗へば白くなる
入れものが無い両手で受ける
久し振りの太陽の下で働く
爪切つたゆびが十本ある
底がぬけた柄杓で水を呑まうとした
寂しい寝る本がない
墓地からもどつて来ても一人
肉がやせて来る太い骨である
なんにもない机の引き出しをあけて見る
とんぼの尾をつまみそこねた
どんどん泣いてしまつた児の顔
花火があがる空の方が町だよ
二階から下りて来てひるめしにする
なんと丸い月が出たよ窓
夕空見てから夜食の箸とる
よい処へ乞食が来た
切られる花を病人見てゐる
とつぷり暮れて足を洗つて居る
みんなが夜の雪をふんでいんだ
一つの湯呑を置いてむせてゐる
春が来たと大きな新聞広告