尾崎放哉の鑑賞室 - 秋月庵
尾崎放哉の句

せきをしてもひとり

墓のうらに廻る

足のうら洗へば白くなる

入れものが無い両手で受ける

久し振りの太陽の下で働く

爪切つたゆびが十本ある

底がぬけた柄杓で水を呑まうとした

寂しい寝る本がない

墓地からもどつて来ても一人

肉がやせて来る太い骨である

なんにもない机の引き出しをあけて見る

とんぼの尾をつまみそこねた

どんどん泣いてしまつた児の顔

花火があがる空の方が町だよ

二階から下りて来てひるめしにする

なんと丸い月が出たよ窓

夕空見てから夜食の箸とる

よい処へ乞食が来た

切られる花を病人見てゐる

とつぷり暮れて足を洗つて居る

みんなが夜の雪をふんでいんだ

一つの湯呑を置いてむせてゐる

春が来たと大きな新聞広告